Webコンサルティング会社
中心設計株式会社 代表取締役社長
日本マーケティング学会 会員
東証一部上場の専門商社にて営業を経験した後、
独立しWeb制作とシステム開発の会社を創業。
その後2008年に再度独立し、
大手メーカーのグループ全社Webコンサルティングや、グローバル企業のWeb改善プロジェクト、中堅・中小企業のWebコンサルティング等に従事し、2011年当社法人化。
最近運動不足でお腹周りが気になっています。
初版公開 2019.02.04
産業機械分野は従来、営業が強い世界でした。
今でも専門性の高い製品に対し確かな知識を持った営業パーソンが、顧客と密接な関係を築き、日々製品を販売されていると思います。
では、そのように営業が強い産業機械分野においてWebはどの程度有効なのでしょうか。
コロナ禍以前から多くの産業機械分野を支援してきたWebコンサルティング会社として言及します。
目次
産業機械は寡占化しやすい分野
世界的に見て現在日本が強い分野は、自動車などの一部を除き、最終製品ではなく生産財です。
NEDO(国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構)により定期的に市場規模及び日本企業のシェア率が発表されていますが、そのデータを見てもシェアが高い分野は部品、素材、装置が大半です。
また、経済産業省が選定し発表している「グローバルニッチトップ企業100選」では、選出された100社のうち61社が機械・加工部門であり、消費財・その他は8社のみでした。
各市場規模は巨大とは言えませんが、産業機械分野は高い技術力を元にシェアを取りやすい分野と言えます。 コンペでよく当たる会社というのは割と限られているという所感はありませんでしょうか。
ユーザ企業各社が合理的に選ぶなら、一部の優れた会社・製品に集中し、トップ層の寡占化が進むことも頷けます。
もちろん市場はニーズが細分化し、よりニッチなニーズを受け止める会社、カスタム対応に強いメーカー等、それぞれのビジネスフィールドで展開されます。
国内市場で高いシェアを持つ産業機械メーカーは海外進出を行ない、また逆に海外の優れたメーカーは日本市場に支社や代理店を設けて進入します。
コロナ禍以降、営業を取り巻く環境が変化、Webはどう使う?
コロナ禍の際、展示会や顧客訪問が制限されたことで営業活動が困難になり、それまで力を入れていなかったWeb・デジタルマーケティングに着手した企業も多くありました。
2024年現在では情勢は落ち着いていますが、リモートワークの普及やオンライン会議の浸透、顧客事業場への立ち入り制限、そして競合のWebマーケティング活性化により、少なからず事業環境が変化しているものと思います。
弊社でも様々な産業機械のWeb・デジタルマーケティング支援を行なって参りましたが、商材特性や背景により、Webの活用方法は細かくチューニングしていく必要があるという結論に達しています。
産業機械と一口に言っても、多種多様なビジネスモデルがある。
- 10億円を越える生産システム
- 1億円を越える生産機械
- 数千万円台の検査装置、搬送ロボット
- 1千万円台の研究用機器
- 数百万円のセンサー
- 数十万円台のコンポーネント、モジュールや構成要素まで
それぞれ産業機械です。
- 工場の立ち上げ時、数十年に一度の更新時、ライン増設時の設備投資ビジネス。
- 顧客の課題を解決する産業機械、問題解決を買うソリューションビジネス。
- そのモノが必要だから買う、スペックで選ぶモノ売りのビジネス。
それぞれ違った課題があり、それぞれ違ったWeb活用があります。
場合分けして解説します。
設備投資型の産業機械のWeb活用
工場の大型設備投資というのは、今の時代ポンポン生まれるものではありません。
特にニッチな分野に特化した産業機械においては、案件の察知ができないのは致命的です。
既存顧客の案件察知
既存顧客に対しては、次の設備投資案件を早期に察知し、可能であれば一社指名で/最低でもコンペに優位な立場で参加する必要があります。
しかし、コロナ禍を経て顧客との関係が希薄化している現状、「既存顧客にも関わらず自社への声がけも無く、知らぬ間に他社に取られ、案件が終了していた」ということが起こっていませんでしょうか?
この変則形で、「声は掛けられたがよそよそしく、蓋を開けてみると既に他社に決まっている」タイプもあります。
特に関係性が悪化するような要因はないはずの状況で、現行ベンダーが知らぬ間に外されているというのは厳しい状況です。
新規顧客の案件察知
大型の設備投資は年単位で計画されるため、情報収集も長期に渡ります。
既存ベンダーから情報を聞くほか、展示会場で各ベンダーからカタログをもらい情報収集し、また第一想起するベンダーの営業パーソンから話を聞く。Webで検討すべき先が漏れていないかをチェックし、カタログなどの資料を集めます。
この段階では通常「情報を集めている」段階なので、アプローチしようと営業接触を試みても「情報収集段階なので」と断られてしまいがちです。
また、Webで資料請求してきた人が「展示会で既に名刺交換している人」であることも度々発生するでしょう。または、既存顧客であるというシーンも。
すると、「Webに意味はあるのだろうか?」という疑問が沸いてくるかもしれません。
ですが、同じ人が何度も登場する。だから良いのです。
今実際にどの会社の誰が検討し、どんな情報を集めているのか。
どのページをどれくらい閲覧していて、何に興味がありそうなのか。
それが察知できるのであれば、営業で今アプローチすべき対象が絞り込まれます。
そして、興味の察知により、「どうアポイントを取るか」の個別に用意するオファーも噛み合うモノとなる可能性が高まります。
一律のメールを送っても、一律のトークスクリプトで架電しても、反応は薄くなります。
相手のニーズや背景という情報が少しでもあれば、より適切な声がけができる可能性が高まります。
これは、アポ取りという心理的な負荷を伴う仕事を、より創造的なものとし、満足感の高い仕事に変える可能性も持ち合わせています。
このように、新規リード獲得だけがWebの価値ではなく、「営業がしにくくなった現在」の営業パーソンをデジタル技術で支援することが可能です。
もちろん、まっさらな新規開拓にも活用できます。足は長い話ですが、億単位の商談の種となるリードも実際にWebから多く生まれ、受注しています。
「新規リード開拓」だけにフォーカスすると、市場によってはインパクトの小さな取り組みになるかもしれません。
ですが、営業のデジタル化、ビジネスの最大化、ということを考えたとき、無数の可能性が生まれます。そして、この種のビジネスは1件当たりの粗利額も高額であり、1発の受注増がWebへの投資を丸ごと回収して余りある場合も多々あります。
ただし、営業部門がデジタルツールを使いこなし、新しいやり方を「便利なもの」として受け入れ、活用する必要があります。
また、継続的なWeb改善・メンテナンス・再強化も必要です。一度仕組みをつくっても、手を入れることをやめたとき、情報は緩やかに価値を下げ、いずれ機能しなくなります。
初期立ち上げと、正しく機能するようにグロースさせる継続支援、そして成功後は支援の頻度や量を減らしながらも生きた仕組みとして維持できるようにするトータルサポートをご用意しています。
問題解決型(ソリューション型)の産業機械のWeb活用
問題解決と言っても、緊急性の有無や、購買支援の必要性度合いによって変わります。
御社が今売りたいソリューション型製品の見込み顧客は、下記のどこが多いでしょう?
どの領域の見込み客が多いかは、商材特性やターゲット毎により如実に違いが出ると感じています。
御社が今Webで受注を拡げたいビジネスは、どの領域の見込み客が多いでしょうか?
楽に売りやすい層が多く、頭打ちにもなっていないなら、ターゲットをニーズが顕在化したタイミングで刈り取る方式を強化していけば良いでしょう。
そして、順次「自社が刈り取りやすい層」へ足を伸ばし、その層を獲得するためのWebの在り方にシフトしていけばビジネスが拡大していくでしょう。
ただし、緊急性が低い商材・かつ高額な問題解決型製品になると、営業に求められる難易度が高まります。
問題解決型の製品を求める顧客は、機械というモノではなく、問題解決を求めています。
売り物が問題解決である以上、御社の売り物が問題を解決できる、そしてそれがベストだと確信させる必要があります。それができなければ価格が安い他社で良いとなるでしょう。
それには単なる製品説明では難しく、「ソリューション営業」や「コンサルティング営業」とまではいかずとも、顧客の問題解決と購買を支援するための情報を引き出し、導く営業が必要です。
それができない中で売れる相手というのは、自分でかみ砕いて理解できて、社内に必要性も伝達し合意形成できる「極めて優秀な顧客担当者」だけになります。
では、そのような売り物を扱うWebはどうあるべきなのでしょうか?
問題解決型の産業機械製品のWebの在り方
とにもかくにも営業の力をフルに活かす必要があります。
このケースでは営業の役割を小さくするのではなく、営業の力・営業の付加価値を最大化するための武器をマーケティングは生み出さなければなりません。
コンテンツマーケティングというメジャーなWebマーケティング手法があります。
顧客にとって役に立つ情報をどんどんWebに放流する手法です。
何でもかんでもユーザに役に立つから/SEO上プラスだからと垂れ流せばいいというものではありません。
Web改善の会議において「これ以上情報を出すと、営業で話すネタがなくなっちゃうので」とストップを掛ける営業パーソンは、センスの良い営業パーソンです。
情報を無制限に出すと、逆に悪手になる場合があります。
営業を活かすなら、営業の付加価値を造りましょう。営業、受注、その後の継続取引のシーンまで見据えて有効に機能する仕組みをつくるのが、良いWebマーケティング/デジタルマーケティング戦略です。
既に自社で取り組んでいて、行き詰まっている場合のサービスや、リスタートするサービスも用意しています。
スペックで売れるモノ売りの産業機械のWeb活用
最初に行なうべきことはシンプルです。
ユーザがその製品のスペックを見て自分で判断できるビジネスの場合は、逆に判断に必要な情報は漏れ無く・わかりやすく提示しましょう。
そうすることでミスマッチを減らし、効率良くモノが売れていく状況を作り出せます。
スペックで売れるケースというのは、基本的にそのモノ自体を探しているときです。
製品カテゴリ名での検索や、メーカー名+カテゴリ名での指名検索、製品名検索、型番検索などが接点になります。
同じ製品を取り扱っている競合が居るのであれば、相見積もりになる場合もあります。
競合対策としてのSEOの順位向上、検索連動型広告が出されていたら対抗する等の基本行動が必要です。
また、最終的にユーザがスペックで判断できるとしても、そのスペックや周辺機能の独自性・優位性を伝えることについて意義がない訳ではありません。
同等スペックであっても自社を選んでもらえるよう、数値で表せない質的情報の充実も行ないましょう。
そうして顕在化している層が飽和し、もっと市場を拡げたいと思ったとき、スペック軸ではなく課題軸でのマーケティング展開が必要になります。
例えば、とある分野の専門的な機械があったとします。
その機械は専門家からはスペックで選ばれますが、分野外の人もその機能による問題解決を求めて購入するケースがあります。
これが「スペックによるモノ売り」から「問題解決によるコト売り」へシフトすることでのビジネス拡大の一手であり、Webを活かせる分野です。
ただし、問題解決の売り方をするということは、前章で触れた通り営業パーソンにも相応の付加が生じます。スペック売りの場合とは異なり、製品説明レベルの商談では売れないものも出てきます。その意味で苦難も伴いますが、企業としての強みに繋がるはずだと信じています。
尚、産業機械は専門的な分野です。集客のためにコンテンツを造ろうと思っても、何が正解なのか、どう取り組めば有効なのか、温度感はどうすれば良いのかわからないかもしれません。
難解・高度な分野のWebマーケティングを支援する専門サービスをご用意しています。
まとめ
産業機械と一口に言っても、ビジネスの形は様々です。
それぞれ有効なWebの在り方が異なります。
また、1つの事業の中に「設備投資」「問題解決のソリューション売り」「スペック売り」それぞれ混在するケースもあります。
さらに言うと、同一の製品であっても、モノ売りとコト売りの両面を持つ製品もあります。
世の中は複雑です。現実に起こっていることを見定めた上で営業とマーケティングをあわせて設計し、最も有効と思われるデジタル活用を組織にインストールすることが大事だと思います。
この記事の執筆者
東証一部上場の専門商社にて営業職に就き、ルート営業、新規開拓営業、展示会営業等を経験した後、Web制作とWebシステム開発の会社を創業。その後2008年に再度独立し、大手メーカーのグループ全社Webコンサルティングや、グローバル企業のWeb改善プロジェクト、中堅・中小企業のWebコンサルティング等に従事し、2011年に当社法人化。代表コンサルタントとして現在も前線で業務に従事しながら、経営・社員のマネジメント・育成・事業開発に勤しんでいます。コロナ禍でお腹周りが10cm増えました。